- このトピックは空です。
-
投稿者投稿
-
ゆかゲスト
あれは、まだ看護師として働き始めたばかりの若かりし頃
県外の病院から、紹介状1枚で当時の勤務病院に紹介されてきた若い末期癌の患者様
医師は紹介元の対応にご立腹・・・患者さんご自身との信頼関係を築く余裕がなかったか?患者様は、末期癌と告知され、疎遠になっていた父親との関係の修復と、治療をしながら仕事への復帰(最期まで働き続けて自然に最期を迎えたい)を、望んでいた。
とはいえ 胃癌末期の症状は強く、医師や職員とのコミュニケーションも充分に取れて居なかった。
医師も、当時の先輩ナースも皆 彼の態度を「治療拒否」と捉えた。
まだ若い私には、成す術がなく、私の言葉など誰に受け止められる筈もなく、私は、ただ一人、この患者さんは、本当に「治療拒否」なのかな? 常に疑問を感じていた。
この方 ただ 本当に苦しくて、身体と心のアンバランスに、のたうち回って居るのじゃないのかな?
真剣に考えた・・・、この方のために、私に出来ることはないだろうか?
看護師のマニュアル
・処置をする時は、患者さんに承諾を得て、本人確認をして実施する
当然 患者さんに声掛けをして「これから点滴を始めます」と伝えて、了承を得て点滴をするわけだが・・・ある日 何日も処置が行えず、拒否されたり、「布団にくるまったまま微動だにしない」
「払いのけられる」と聞いた。
その日も点滴が行えずにいた。
医師は、「拒否があるなら無理をしなくて良い」と、指示を出した。
その指示に、私は漠然と不安を覚えた。
その翌日、私が準夜勤に出勤すると、やはり点滴はされていなかった。その夜 考えた私はマニュアルを無視した。
そっと 音を立てないように、患者さんを刺激しないように気配を消す努力をした。
布団をそっと軽く、はぐると、丸まった身体お腹の下で交差する腕の端から輸液ルートが出ている。
患者さんは反応しない。
そっと そのルートに輸液を繋ぐだけだ。
慎重に慎重に・・・輸液は、繋がれた。点滴の落ちも良く、漏れている印象もない。
ひとまず ホッとした。
しばらく、患者さんと、点滴を交互に眺める。まだ 終わってはいない。
入ってきた時と、同じように慎重に慎重に・・・病室の扉を閉める時・・・初めて患者さんは、布団を軽く引き込んだ。
気付いてはいたんだ。
点滴を受け入れてくれた。そして、この日から1週間後に、この方は突然の痙攣発作でなくなった。
その間に行えた点滴は、私の行った、この1本だけだった。
胃癌末期の患者さんではあったが、直接の死因は脱水による脳血栓だった。
-
投稿者投稿