下剤は、便秘や腸の機能不全に悩む人々にとって救いの手です。
しかし、種類が多すぎて、どの薬を選べばいいのか迷ってしまうこともあります。
特に訪問看護師としては、患者さんの様々な要望に応えられるように、下剤の知識は必要不可欠です。
このガイドでは、訪問看護師が知っておくべき下剤の種類と特徴を、実用的な視点で解説します。
なお、主な下剤の種類は以下の通りです。
1. 大腸刺激性下剤
刺激性下剤は、腸の運動を活性化させ、便の排出を促進する薬剤です。
腸の筋肉を刺激することで、蠕動運動(筋肉の波状運動)を高め、便を排出しやすくします。
その効果は迅速で、服用後すぐに便意を感じることが多く、8〜10時間で効果があらわれます。
刺激性下剤は、短期的に使用する場合は問題ありません。
しかし、長期間にわたって毎日服用すると、腸の筋肉が弛緩し、下剤を飲まないと便が出にくくなるという状態になる可能性があります。
これは、腸の自然な運動が抑制され、依存関係が生じることを示しています。
①プルゼニド錠
・作用機序:
大腸内の細菌の作用で腸の蠕動動運動を亢進させる物質になり、大腸粘膜を刺激して腸の動きを促進し、排便を促します。
通常、便秘症の治療に用いられます。
・用法:
プルゼニド2錠を、眠前に水で内服します。
1回4錠まで増量できます。
・メリット:
翌日にお腹を壊すことはない、比較的穏やかな下剤です。
小粒で腸溶剤なので、薬の苦味を感じなく誰でも楽に内服できます。
・デメリット:
主な副作用として、腹痛、下痢、腹鳴、悪心、嘔吐、発疹などがあります。
・禁忌の有無:
以下の患者さんには投与しないでください。
○本剤の成分又はセンノシド製剤に過敏症の既往歴のある患者さん
○急性腹症が疑われる患者さん、痙攣性便秘の患者さん
○重症の硬結便のある患者さん
○電解質失調(特に低カリウム血症)のある患者さん
・どういったときに選択されるか:
切れ味が良く使い勝手がよいですが、薬剤耐性が問題となります。排便が2〜3日見られず、腸蠕動音が低下している場合に頓用として使い、決して第一選択薬として用いず、常用しないようにしましょう。
②アローゼン顆粒
・作用機序:
アローゼン顆粒は、ビフィズス菌などの腸内細菌の作用を使って大腸を直接刺激して排便を促し、大腸内の水分吸収を抑えて便が固くならないようにして便秘を改善します。
・用法:
眠前にアローゼン顆粒1.0gを水で服用します。
・メリット:
穏やかな効果で体に優しく、浣腸の補助剤にもなります。
・デメリット:
顆粒なので、服薬しづらい点があります。
飲みにくい場合は、オブラートに包んで飲むと口に顆粒が残らず、飲みやすいです。
主な副作用として、発疹、腹痛、吐き気・嘔吐、腹鳴などがあります。
耐性が起きるため、効果が減弱する場合があります。頓服として用い、長期の服用を避けましょう。
また、腸内細菌が少ない場合は、いくらアローゼン顆粒を服用しても全く効果が得られないので注意が必要です。
・禁忌の有無:
以下の患者さんには投与しないでください。
○本剤・センノシド製剤に過敏症の既往歴のある患者さん
○急性腹症が疑われる患者さん、または痙攣性便秘の患者さん
○重症の硬結便の患者さん
また、以下の患者さんへの大量投与は避けてください。
○電解質失調(特に低カリウム血症の患者)のある患者さん
・どういったときに選択されるか:
排便が2〜3日見られず、腸蠕動音が低下している場合に使用します。プルセニド錠の効果が弱い場合は、アローゼン顆粒を試してみましょう。
③ラキソベロン内用液0.75%
・作用機序:
大腸を刺激し腸の運動を活発にするとともに、大腸からの水分吸収を抑えることで便を柔らかくし排便を促します。
意外かもしれませんが、胃や小腸ではほとんど作用しません。
効果の発現は7〜12時間ほどです。
刺激性下剤の中では、比較的耐性を生じることは少ないです。
・用法:
通常、成人に対して1日1回10〜15滴(0.67〜1.0mL)を経口投与します。
・メリット:
サラッとした甘いシロップ剤で出来ているので、水に溶かして内服できます。
多剤服用の患者さんには、下剤の錠剤数を増やさなくて済む為、併用しやすいです。
眠前に内服すると、翌日スルッと排便が見られます。
滴下数を患者さんに合わせて簡単に調整できるので便利です。
・デメリット:
主な副作用として、発疹、腹痛、吐き気・嘔吐、腹鳴、蕁麻疹などがあります。
滴下数が多いと下痢をしてしまうので、患者さんに合った滴下数を把握しておく必要があります。
・禁忌の有無:
以下の患者さんには投与しないでください。
○急性腹症が疑われる患者さん
○本剤の成分に対して過敏症の既往歴のある患者さん
○腸管に閉塞のある患者さん、またはその疑いのある患者さん
・どういったときに選択されるか:
錠剤や顆粒を服薬させにくい患者さんや、経管栄養の患者さんに投薬する時に使われます。
④テレミンソフト坐薬
・作用機序:
坐薬であり挿肛する為、直腸から吸収され、坐薬が炭酸ガスを発泡することにより、排便が促されます。
・用法:
坐薬を一個挿肛して排便を促しても、なお排便が見られない場合はもう1個追加で挿肛して排便を促します。
大抵は2個で排便が見られます。
・メリット:
坐剤なので、直腸から速やかに薬物が吸収され、5〜20分くらいで効果が早く出ます。
炭酸ガスが発生しますが、体に吸収されないので害のない座薬です。
・デメリット:
挿肛する際お尻を出して貰わないとならないので、患者さんに負担がかかります。
テレミンソフト坐薬に比べると効果は弱めです。
冷所保存です。
・禁忌の有無:
本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者さんには使用しないで下さい。
・どういったときに選択されるか:
便が固くて蓋をしている場合など、炭酸ガスで発泡することにより、便を柔らかくして砕いてくれるので、頑固な便秘にも多用されます。
なお、ラキソベロンの検証的試験から、プルセニド、アローゼンとの同等の効果が得られる目安は以下の表の通りです。
2. 緩下剤
緩下剤は、便秘の症状を和らげ、快便を取り戻すために用いられる薬です。
緩下剤の主な役割は、便を柔らかくして腸内を通過しやすくすることです。
これにより、排便が促進され、便秘の改善につながります。
一般的に、緩下剤は就寝前に服用することが推奨されます。
睡眠中に腸の運動が活発になるため、翌朝に排便が促されることが多く、便秘解消に効果的です。
緩下剤は、便秘の症状を改善するための有効な手段です。
しかし、長期的な便秘の管理には、食事の改善や運動、水分補給などの生活習慣の見直しも重要です。
適切な薬剤の選択と、健康的な生活習慣の組み合わせが、便秘の予防と改善に繋がります。
①マグミット錠330㎎
・作用機序:
制酸作用があり胃酸を抑えるとともに、腸内の浸透圧を高めて腸壁から水分を引き寄せ、腸の内容物を軟化・膨張させて腸管に拡張刺激を与えることで、排便を促します。
・用法:
眠前に水で内服します。
・メリット:
浸透圧性下剤で、穏やかな効果を示します。
・デメリット:
主な副作用として、吐き気・嘔吐、血圧低下、筋力低下、高マグネシウム血症があります。
・禁忌の有無:
骨粗鬆症の薬と併用すると高マグネシウム血症を引き起こす恐れがあります。
また、狭心症の薬の効果を減弱させてしまうので、それらの薬は2〜3時間ずらして服薬してもらうようにしましょう。
逆流性食道炎で処方される胃酸分泌抑制薬による作用減弱に注意が必要です。
・どういったときに選択されるか:
高齢者の便秘に対する第一選択薬です。
しかし、高マグネシウム血症の注意喚起もなされており、定期的な血中マグネシウム濃度測定および腎機能の低下をeGFRでモニタリングする必要があります。
また、長期投与となりやすいため、血液検査で異常が現れた場合には別の緩下剤などの使用を検討する必要があります。
②モニラックシロップ65%
・作用機序:
通常、肝硬変に伴う高アンモニア血症の治療に用いる薬です。
吸収されない糖分の浸透圧の効果で、水分を引っ張って便をやわらかくします。
また、腸内で分解され有機酸(乳酸、酢酸など)となり、腸管の運動を促す作用があります。
・用法:
通常、成人は1日量30〜60mL(19.5〜39g)を朝夕2回に分けて服用します。
・メリット:
甘いシロップ剤でトロミも付いているので、誤嚥し易い患者さんにも安心して使用出来ます。
穏やかな下剤です。
・デメリット:
糖尿病治療薬と併用すると、腸内ガスの発生や下痢の副作用が起こりやすくなる可能性があります。
甘いシロップ剤で出来ており甘さを感じる為、苦手な患者さんもいらっしゃいます。
また、高アンモニウム血症の注意喚起もなされており、定期的な血中アンモニア濃度をモニタリングする必要があります。
開栓後は密封し冷所保存が必要です。
・禁忌の有無:
ガラクトース血症の患者さんには投与しないで下さい。
・どういったときに選択されるか:
第一選択薬のマグミット錠を使ってみて、効果が見られない場合もしくは血液検査や腎機能の低下が見られた場合に使って下さい。
3. 消化運動機能改善薬
消化管運動機能改善薬は、消化管の健康をサポートする画期的な薬剤です。
その作用は、食道と胃の蠕動運動(筋肉の波状運動)を改善し、消化管の機能を最適化することにあります。
これらの薬剤は、食道内の胃酸を胃に戻すのに役立ちます。
食道は副交感神経によって制御され、この神経はアセチルコリンと呼ばれる神経伝達物質によって活性化されます。
また、胃の運動機能を改善させ、胃から腸への食物の移動を促進します。
これにより、胃酸の分泌量を減らす効果も期待できます。
直接下剤として働くというよりも、便秘による胃もたれやむかつきなどを改善するために使われることが多いです。
①ガスモチン錠5mg
・作用機序:
モサプリドは消化管内の神経を刺激し、平滑筋の運動を高め消化管の運動が活発になり、胃排泄速度が上昇します。
上部消化管、下部消化管両方の運動を改善します。
・用法:
通常、成人には、1日15mgを3回に分けて食前または食後に経口投与します。
・メリット:
腸内のガスによる腹部膨満感が解消し、お腹の張りや胃もたれから開放されます。
・デメリット:
下剤というより、胃部不快感などに効果があり、下剤としての保険適応がありません。
副作用は比較的少ないですが、消化管の運動が活発になる影響で下痢や軟便、腹痛が生じる場合があります。
重篤な副作用として劇症肝炎、肝機能障害、黄疸が報告されています。
死亡に至った例もあり、その後も重篤な肝機能障害の報告が減らないことから、添付文書の「重要な基本的注意」に追記されました。
劇症肝炎、肝機能障害、黄疸があらわれることがあるため、長期に渡って漫然と投与しないこと、とも記載されています。
・禁忌の有無:
アトロピン、ブスコパンなど抗コリン剤を服用する場合は、本剤の作用が減弱する可能性があるので、服用間隔をあけるなど注意して下さい。
・どういったときに選択されるか:
軽い便秘がある場合に用います。
胃と腸の蠕動運動を促す働きがあります。
酸化マグネシウムと併用することが基本となります。
直接便秘に効くというよりも、便秘に伴う胃もたれやお腹の張りを改善する時に使われます。
4. 上皮機能変容薬
上皮機能変容薬は、消化管、特に小腸や腸粘膜上皮の機能を調節し、便秘の改善に焦点を当てた革新的な薬剤グループです。
これらの薬剤は、腸管内の水分分泌を促進し、便の柔軟性を高めることで、排便を円滑にすることを目的としています。
上皮機能変容薬の主な特徴は、以下のような独特の作用機序にあります。
・水分分泌の増加: これらの薬剤は、腸管上皮細胞の水分分泌を刺激し、腸管内の水分量を増加させます。これにより、便が柔らかくなり、排便が容易になります。
・便輸送の向上: 腸管内を移動する便の輸送を促進し、排便回数を増やすことで便秘の改善を目指します。
上皮機能変容薬は、薬理作用上、長期連用による副作用のリスクが比較的低いとされています。
従来の刺激性下剤や酸化マグネシウムの不整脈などの副作用とは異なり、これらの薬剤は腸管の機能を調整し、自然な排便を促進するため、体への負担が少ない傾向があります。
①リンゼス錠0.25㎎
・作用機序:
薬剤が腸管上皮細胞に作用し、水分分泌を促進することで便通を改善します。
また、内臓痛覚神経線維にも作用し、
痛みや不快感を改善します。
・用法:
通常、成人は1回2錠(主成分として0.5mg)を1日1回、食前に服用します。症状により1回1錠(0.25mg)に減量されます。
・メリット:
長期投与に伴う副作用がかなり少ないです。
他の下剤にはない、腹痛や腹部不快感の症状を和らげる作用もあります。
・デメリット:
主な副作用として、下痢などが報告されています。又、泥状または水様の便、激しい腹痛が報告されています。
新薬なので1割負担でも約10円/錠と薬価が高いです。
・禁忌の有無:
以下の患者さんには投与しないでください。
○機械的消化管閉塞又はその疑いがある患者さん
○本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者さん
・どういったときに選択されるか:
マグミットやモニラックなどの緩下剤で効果が見られない場合に使用します。
②アミティーザカプセル
・作用機序:
薬剤が細胞膜のイオンチャネルに作用し、水分が分泌され便が軟らかくなる仕組みです。
・用法:
通常、成人は1回1カプセル(主成分として24μg)を1日2回、朝食後および夕食後に服用しますが、症状により適宜減量されます。(薬のしおり)
・メリット:
ソフトカプセルなので、飲みやすく、腸で溶解します。
マグミットと異なり、骨粗鬆症治療薬を併用していても飲めるお薬です。
長期投与に伴う副作用がかなり少ないです。
・デメリット:
新薬なので1割負担でも約10円/カプセルと薬価が高いです。
・禁忌の有無:
以下の患者さんには投与しないでください。
○腫瘍やヘルニア等による腸閉塞が確認される患者さん、または腸閉塞が疑われる患者さん
○過去にアミティーザカプセルに含まれる成分で過敏な反応を経験したことがある患者さん
また、以下の患者さんには1日1カプセルから慎重投与して下さい。
○中等度又は重度の肝機能障害のある患者さん
○重度の腎機能障害のある患者さん
・どういったときに選択されるか:
マグミットやモニラックなどの緩下剤で効果が見られない場合に使用します。
高齢者では高頻度で下痢になるため、1日1錠に減量して処方することが多いです。
③グーフィス錠5mg
・作用機序:
胆汁酸性下痢が起こるメカニズムと似ていて、グーフィスは小腸での胆汁酸再吸収を抑制するため、大腸への胆汁酸の流入が増えて、それにより大腸内の水分分泌が促進され、消化管運動も促進されます。
・用法:
通常、成人は1回2錠を1日1回食前に服用します。
症状により適宜増減されますが、1日の最高用量は3錠(15mg)です。
・メリット:
長期投与に伴う副作用がかなり少ないです。
便の水分を増やして柔らかくし、腸管を刺激して便を出しやすくするという2つの効果を持つ薬です。
また、胆汁酸は脂質の吸収と関係しており、この薬は胆汁酸の吸収を阻害するため、コレステロールの低下も期待できるかもしれません。
・デメリット:
胆汁が分泌される前に内服しないと効果が期待できないので、食前投与が必要です。
胆汁分泌のきっかけは食事ですので、食事摂取の困難な方には効果がありません。
副作用として頻度が高いものは「腹痛」です。
蠕動を惹起する作用があるのでお腹がグルグル動いて痛みを感じることが多いです。
・禁忌の有無:
以下の患者さんには投与しないでください。
○本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者さん
○腫瘍、ヘルニア等による腸閉塞が確認されている患者さん、または疑われる患者さん
・どういったときに選択されるか:
マグミットによる高マグネシウム血症が懸念される場合や、刺激性下剤による薬剤耐性が問題となるケースで使用します。
まとめ
訪問看護師が適切な下剤を選択するには、患者の症状や状態を理解し、それぞれの薬の作用機序、用法、メリット、デメリットを把握することが重要です。
大腸刺激性下剤、緩下剤、消化運動機能改善剤、上皮機能変容薬、どれも患者さんの便秘や消化器系の症状に効果的ですが、使用には注意が必要です。
禁忌や副作用を理解し、患者さんに合った下剤を選択しましょう。
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